こんにちは。タロットファン.jp 井上です。
タロットカードの中でも、ひときわ異彩を放つカードといわれれば、多くの人がトートタロットカードを挙げるのではないでしょうか?
もちろん以前に、こちらの「初めてのイーチンタロット占い!カードの意味や種類と占い方を徹底解説」でも紹介した、イーチンタロットも、タロットカードとしては特殊ですが、中国の易の要素を含んでいますから、占いとしてはとても古くからの歴史があるものです。
ただ今回紹介する、このトートタロットについては、特殊というよりも異彩なカードといってよいでしょう。
一般的なタロットカードよりも、さらに魔術的な要素を含んだカードで、カードの構成も一般的なタロットとは違います。
今回はそんなトートタロットとは、どのようなカードなのか、初心者にも解るようにその特徴や意味、歴史などを解説していきたいと思います。
トートタロットカードの2人の作者
トートタロットカードの歴史や誕生した経緯を知る上で、まずはこちらの「【重要】タロットカード初心者に知って欲しい<種類、構成、歴史>」をご覧になっておいてください。
こちらではタロットカードの誕生から、現在に至るまでの歴史や背景が、初心者にも解り易く書かれています。その上でこの記事をご覧いただくと、なお理解が深まるでしょう。
2人の作者の運命的な出会い
トートタロットは、オカルティストのアレイスター・クロウリー(Aleister Crowley)によって考案され、芸術家のフリーダ・ハリス(Frieda Harris)によって描かれたタロットカードです。
トートタロット作者の一人である、アレイスター・クロウリーは、1937年に自身のタロットカードを作るため、劇作家のクフォード・バックスに、カードの図柄を描いてくれるアーティストを、紹介してくれるように依頼します。
当初バックスは、2人の芸術家をクロウリーと引き合わせようとしましたが、どちらも予定が合わずそれは叶いませんでした。
そして1937年6月9日に当時60歳になった、ハリスと運命的な出会いを遂げることになるのです。
オカルティストのアレイスター・クロウリーの人生
トートタロットの発案者、アレイスター・クロウリー(エドワード・アレクサンダー・クロウリー:Edward Alexander Crowley)は、1875年10月12日にイングランド中部のウェスト・ミッドランズ都市州の、ウォリックシャー (Warwickshire)で生まれます。
クロウリーの父はとても敬虔なキリスト教徒で、毎日の朝食後に妻子に聖書を読み聞かせたり、多くの時間をキリスト教の宣教師として過ごしました。
クロウリーは8歳の時に、キリスト教の寄宿学校に送られますが、宗教の教師に聖書の中の論理的な矛盾を指摘し、キリスト教について懐疑的になり、そこからオカルティズムへと傾倒してい行きます。
その後11歳で父を失うと、その財産を継承し、その後はその遺産で生活を送ることとなります。
Wikpedia参照、画像引用:アレイスター・クロウリー、黄金の夜明け団
クロウリーの遍歴
クロウリーは、1898年にケンブリッジ大学を卒業間近にして、「黄金の夜明け団」に入り、その神秘主義思想に魅了されるのです。
その後、黄金の夜明け団の内紛に紛れて脱退すると、日本や中国、スリランカなどのアジア諸国を訪れ、ヨーガを学びながら、登山家としても活動します。
彼は世界中を転々としながら、オカルトや神秘主義に関する数々の著書を出版し、時には神秘主義結社を創設しました。ですがその一方、喘息の病に苦しみその治療から麻薬中毒へと溺れていくのです。
彼はその奇抜で奔放な研究活動から、マスコミに「世界で最も邪悪な男」と揶揄されるようになり。
それから幾度もの紆余曲折を経て、1937年に共にトートタロットを作ることとなる、フリーダ・ハリスと出会うのです。
Wikpedia参照、画像引用:アレイスター・クロウリー、儀式の服、1912年
芸術家フリーダ・ハリスの人生
マーガレット・フリーダ・ハリス(Marguerite Frieda Harris)は、トートタロットのアーティストとして最も有名です。
彼女は1878年8月13日にロンドンの外科医の父親のもとに、マーガレット・フリーダ・ブロッサムとして誕生します。23歳のときに友人の紹介でパーシー・ハリスと結婚すると、夫はロンドンの政治家として、40年以上のキャリアを積むことになります。
その間、彼女は二人の子供を授かり、敬虔なクリスチャンとして教育しながら、自身は芸術家として、毎日12時間を絵画などの創作活動に費やし、膨大な作品を描いていきました。
ハリスは自分の絵画が、貴族として評価されることを好まず、偽名を使って個展などを開いていましたが、その姿勢は、トートタロットへの協力についても同様で、自らは匿名で関わることを、クロウリーに申し出たのです。
Wikipedi参考:Lady Frieda Harris
famousfix.com画像引用:Frieda Lady Harris
トートタロットの歴史と誕生
そんな二人が1937年に出会い、ロンドンのパーククレセントにあるクロウリーの友人の家で、トートタロットの編纂が始まります。
ハリスがクロウリーに与えた影響
クロウリーはもともと、それまでの伝統的なタロットカード思想を継承しつつ、デザインを見直すことを前提として、トートタロットの作製を考えていました。
ですがハリスは、彼のもつオカルトや魔術的要素、スピリチュアルや科学的見地を、カードのデザインに取り入れるように促したのです。
彼らはお互いに信頼し合い、ハリスはクロウリーの描写をカードに描き出すために、時には同じカードを8回も書き直すなど、熱意を注ぎます。
その結果、当初6ヶ月で新しいタロットカードをデザインする予定でしたが、実際には出版まで5年の歳月を費やすこととなったのです。そして、後に高い評価を受ける、トートタロットデッキを完成させました。
zeroequalstwo.net画像引用:左ハリスと右クロウリー
トートタロット解説書「トートの書」の発売
二人が作り上げたトートタロットは、1944年の3月21日(春分の日)に、『トートの書』という書籍として発行されます。
トートの書には、クロウリーがハリスと共にデザインした、『トートタロットカード』の挿絵と、タロット占いに関する哲学的な理論や、カードの意味、使用法などが詳しく紹介されていました。
初版は皮製品で製本された200冊の限定版として発売され、その後に1500冊が出版され販売されたのです。
ですがその当時はまだ、トートタロットカードはデッキとして存在せず、カードの解説書のみが、先行して発表されるだけでした。
実際にトートタロットが、タロットカードデッキとして世に登場するのは、クロウリーの死後から22年の月日が流れた、1969年となったのです。
左Wikpedia引用:トートの書、右画像引用:トートタロットカード
トートタロットのカード構成と特徴
ここまでは、トートタロットが誕生するまでの、歴史的な経緯を見てきましたが、ここからは実際にトートタロットと、一般的なタロットカードとの違いを確認していきましょう。
トートタロットのカード構成について
トートタロットも、ウェイト版タロットカードと同様に、基本的にはクロウリーが所属していた「黄金の夜明け団」の教義に基づいて作られています。
クロウリーはそこに、自身の40年に渡るオカルトや占い、魔術儀式、カラバ、神秘主義思想、などの研究を統合し、独自の意味や解釈を加えて、オリジナルのカードデッキを作り出したのです。
トートタロットもカード枚数は、一般的なタロットカード同様で、「アテュ」と呼ばれる大アルカナ22枚と、「スモールカード」と呼ばれる小アルカナ56枚のカードで構成されています。
しかしながら、大アルカナや小アルカナのカード構成が、一般的なタロットカードとは大きく異なるのが特徴的です。まずはそのカード構成の違いから確認していきましょう。
アテュ(大アルカナ)のカード構成
まずは、アテュ(大アルカナ)のカード構成を、マルセイユ版タロットデッキと比較して確認しましょう。
なお、一般的なタロットカードの大アルカナの構成や意味については、『タロットカード大アルカナ22枚の意味と解釈のポイントを一覧で紹介』を参考にしてください。
8:『正義』JUSTICEが『調整』Adjustment
10:『運命の輪』WHEEL OF FORTUNEが『運命』Fortune
11:『力』STRENGTHが『欲望』Lust
14:『節制』TEMPERANCEが『技』Art
20:『審判』JUDGEMENTが『永劫』The Aeon
21:『世界』THE WORLDが『宇宙』The Universe
アテュの中で最も特徴的なカードが、「20:永劫のカード」です。
これまでの審判のカードは、キリストの復活を象徴していました。しかしながら、トートタロットカードでは、「オシリスの時代」の終わりと「ホルスの時代」への移行を意味します。
「オシリスの時代」とは、一神教など唯一の神に従う時代。「ホルスの時代」とは自身の中に神性を見出す時代であると、クロウリーは説明しています。
スモールカード(小アルカナ)のカード構成
小アルカナとされるスモールカードも、人物札(コートカード)の名称が変更されています。こちらもマルセイユ版と比べてみましょう。
・『小姓』Pageが『王女』Princess
・『騎士』Knightが『王子』Prince
・『女王』Queenが『女王』Queen
・『王』Kingが『騎士』Knight
トートタロットには『王:King』と『小姓:Page』のカードが存在しません。そして新たに『王子:Prince』と『王女:Princess』が加わっています。
また、小アルカナの4スートについては、『ワンド』、『カップ』、『ソード』、『デスク』となっており、大きな変更はありません。
一般的な小アルカナについては、こちらの「タロットカード小アルカナの意味一覧<ワンド、コイン、ソ―ド、カップ>」をご確認ください。
4スートとは、トランプの「スペード」、「ハート」、「クラブ」、「ダイヤ」と同様に4種類に分けられた構成です。
※画像、解説引用:トートタロット入門セット
生命の樹に当てはまるトートタロットの特徴
クロウリーが考案したトートタロットは、それぞれのカードが、ユダヤ教の神秘主義思想である、カラバの奥義「生命の樹(セフィロトの樹)」に当てはまります。
クロウリーや、ウエイト版タロットの発案者、アーサー・エドワード・ウェイトが、所属していた「黄金の夜明け団」では、このカラバや占星術とタロットカードを組み合わせる研究がされていました。
その為トートタロットは、生命の樹や占星術などの関連性から、カードの意味を読み解いていくものとなったのです。
生命の樹(せいめいのき、英語: Tree of Life)は、旧約聖書の創世記(2章9節以降)にエデンの園の中央に植えられた木。命の木とも訳される。生命の樹の実を食べると、神に等しき永遠の命を得るとされる。カバラではセフィロトの木(英語: Sephirothic tree)という。
Wikipedia引用:生命の樹
Wikipedia引用:カラバに記されている生命の樹
アテュ(大アルカナ)の意味
それでは実際のトートタロットカードの意味を見ていきます。
ここではトートタロットがどのようなものかを、初心者の方に感じていただければと思いますので、数枚のカードについて、要点を簡単に紹介していきます。まずはアテュ(大アルカナ)の3枚のカードを見ていきましょう。
こちらではトートタロットの解説書『ザ・トート・タロット』を参考に記載しています。トートタロットカードの意味はとても特殊な物が多く、スモールカードに至るすべてのカードに深い意味があるので、実際に利用される方は、こちらの解説書を用意されたほうが良いでしょう。
アテュⅠ:魔術師【The Magus:メイガス】
テーマ:高次の知覚を得て、すべてのことを認識する
ヘブライ文字:Beth(ベス)「家」
占星術:水星
生命の樹:ケテル=ビナー
タロットカードではおなじみの「魔術師のカード」も、トートタロットでは、ローマ神話のメルクリウス神が描かれ、より神秘的な意味合いが含まれます。
頭上にある尖筆とパピルス紙は、科学の象徴、その下には4つのエレメントの象徴として「棒、杯、剣、円盤」が描かれ、すべての知覚を得た調和や、コミュニケーションを表すのです。
なお、こちらの「タロットカード「1:魔術師」の意味と解釈<仕事、恋愛>」では、魔術師のカードについて詳しく解説しています。
アテュⅩⅣ:技【Art:アート】
テーマ:相反するものを融合する
ヘブライ文字:samekh(サメク)「支柱」
占星術:射手座
生命の樹:ティファレト=イエソド
14番のカードは、「節制」から「技」へと変更されたカードです。描かれているのは、男女が1つに合わさった両性有具の人物で、火と水を大釜に注いでいます。
これは相反するものを融合する錬金術師の姿です。融合やバランスを取ることを意味して、調和を促しているカードです。
アテュⅩⅣ:永劫【The Aeon:アイオーン】
テーマ:新しい時代を生きる
ヘブライ文字:Shin(シン)「歯」
占星術:火のエレメント
生命の樹:ホド=マルクト
アテュ(大アルカナ)の20番は、「永劫」のカードとなっています。女性の子宮をイメージした歪曲した図柄の中央に、新しい永劫を象徴する太陽の神、エジプトのホルス神が座しています。
このカードは新たなスタート、心機一転、希望など、古きを手放し、新し世界へ成長を遂げることを意味しています。
スモールカード(小アルカナ)の意味
トートタロットカードのスモールカードは、コートカードと呼ばれる人物札と、数札で構成されます。
数札はウェイト版とは異なり、どちらかといえばマルセイユ版に近い、象徴的な図柄が描かれています。こちらも3枚を紹介しましょう。
スモールカード【Prince of Disks:ディスクの王子】
テーマ:現実的な感覚を研ぎ澄ませる
エレメント:地の宮の風
占星術:牡牛座20度~牡牛座20度
生命の樹:ティファレト(美)
スモールカードの「ディスクの王子」のカードは、力強く優勢な地のエレメントの象徴です。
現実的な実行や、何事にも動じない姿を示しており、具体的な成果を得るために、努力する必要があることを意味します。
スモールカード【Princess of Cups:カップの王女】
テーマ:夢と幻想の中で遊ぶ
エレメント:水の宮の地
占星術:なし(太平洋の天空)
生命の樹:マルクト(王国)
水晶、蓮の花、亀や白鳥など、様々な宗教的な意味を持つ象徴が描かれたカップの王女は、意識を外に向けて開いている姿を表します。
その為、感受性が豊かになったり、周囲に流され易かったり、幻想や想像などイメージの世界に溺れ易い傾向を、指し示しているのです。
スモールカード【Interference:ソードの8】
テーマ:自分の心に潜む破滅願望に気付く
エレメント:8 風のエレメント
占星術:双子座の木星
生命の樹:ホド(栄光)
このソードの8に描かれている剣は、あらゆる国々の祭儀に使用されるものです。それぞれの剣を貫く2本の剣が下を向いていることから、強い決意が何度も妨害されていることをあらわしています。
そのような意味では、干渉や妨害、葛藤や猜疑心など、進むに進めない状況を物語っています。
占い方やカードのスプレッドについて
では最後に、トートタロットカードを使った、簡単な占い方についてお話しして終了しましょう。
カードのシャッフルやスプレッドについて
トートタロットを利用した占い方は、一般のタロットカードを使った占いの手順と、大きく変わるところはありません。
カードのシャッフルの方法や、スプレッドについても、従来のやり方を利用することが可能です。
ですから、もしまだタロット占いの基本が解らないのであれば、まずはこちらの「タロットカード占い初心者のための基本的なやり方【シャッフルなど入門編】」をご覧ください。
さらには、こちらの「タロット占いワンオラクルの簡単なやり方<仕事や恋愛の占い実例>」でも、ワンオラクルという1枚で占う、初心者向けのやり方を紹介しています。
トートタロットには正位置、逆位置がない
トートタロットカードで占う際の大きな相違点は、カードの意味を解釈するに当たり、正位置や逆位置による違いがないことです。
これはカードの背面に「薔薇十字」の模様が描かれているため、カードを展開する前に上下が解ってしまい、先入観が生まれやすいからだと言われています。
ただ、もともと「黄金の夜明け団」では、カードの正位置、逆位置の解釈は、取り入れられていなかったようです。
その為トートタロットでは、生命の樹におけるカードの位置関係や、隣り合わせのエレメントの関係性から、展開されたカードの意味を読み取っていきます。
エレメントとは、4大元素とされるもので、スモールカードでは『ワンド(火)』、『カップ(水)』、『ソード(風)』、『デスク(地)』が対応しています。
カードの意味の解釈は解説書がおすすめ
生命の樹の位置関係や、占星術におけるカードの位置、エレメントにおける相関性などを、詳しく見定めて読み解いていくことはとても複雑です。
ですから、実際にトートタロットを利用したい方は、詳しくはこちらの解説書『ザ・トート・タロット』を利用した方が良いでしょう。
こちらの解説書であれば、カード1枚1枚の詳し解説から、多種多様なスプレッド(占い方)、各エレメントの関係性も掲載されており、占う上でのケーススタディもあります。
これなら初めてトートタロットに触れる方でも、迷うことなく占いを始められるでしょう。
エピローグ:その後の2人の人生
トートタロットの作製が終わると、二人は一時疎遠になりますが、その間も連絡を取り合っていたようです。
アレイスタークロウリーの死とハリス
クロウリーはその後イギリスの片田舎、ヘイスティングス(Hastings、East Sussex)でその生涯を終えます。
ハリスはクロウリーの晩年も頻繁に足を運び、彼の看病を手伝いました。そしてクロウリーが旅立つ最後の日も傍らにいて、彼の死を見届けたのです。
そんなハリスが、クロウリーの死を友人に伝えた手紙の中には、こんな言葉がありました。
私は彼が居なくてとても寂しい、かけがえのない人を失った。愛は法であり、愛は彼の意志の下にある。 フリーダ・ハリス
Wikipedi引用:Lady Frieda Harris
クロウリー亡き後のハリス
ハリスは米国での講演を行い、1948年にはトートタロットの原画の展示会を計画しましたが、その夢は叶いませんでした。
1952年に夫のパーシー・ハリスが亡くなると、彼女はインドのスリナガルに移住して1962年5月11日、84年の生涯を閉じます。
彼女が描いたトートタロットの原画は、彼女が亡くなる間際に友人で作家のジェラルド・ヨークに遺贈されました。それによりヨークが運営していた、イギリスのウォーバーグ研究所(ロンドン大学:文化人類学研究機関)に送られます。
そして彼が集めたクロウリーの資料と共に保管されたのです。
※こちらで利用した解説書のセット:トートタロット入門セット